その1 山田さんとの出会い
山田さんと私達が初めて出会ったのは2013年3月、まだ寒さの残る早春でした。
1月中旬に下痢がきっかけで食欲不振になり、布団上で過ごされる事も多くなり、段差や構造上などの問題もあり、ご自宅での入浴も3,4ヶ月ほど出来ていない状態で、髭や頭髪も伸び放題なのでデイサービスを利用しての入浴や整容などをお願いしたいとの事でお話がありました。
初めてお家に訪問させてもらい
スタッフ「山田さんこんにちは。元気の家の○○○です。」
山田さん「・・・」
スタッフ「山田さんこんにちは! 元気の家の○○○です!」
山田さん「・・・」
スタッフ「山田さんこんにちは! 元気の家の○○○です!!」
山田さん「・・・」「すまんなー。わからんわ・・・。」
事前に右耳はほとんど聞こえない、左耳は大きな声で喋ってもらえば聞こえるとの事でしたが、何回も大きな声で喋り掛けるもほとんど伝わらない状態でした。
息子様のお話ではちょっと前までは、もう少し聞こえたとの話。
山田さんも大勢の中でいるより、一人でいる方がいいとの息子様のお話でしたのでデイに帰って来てからは山田さんにどのように接すればよいのか、スタッフ全員で話し合いを重ねる日々が続きました。
その2 初めてのデイサービス利用
仙人のように伸びた髭や頭髪。歩行はほぼ毎日寝て過ごされていたとの事で、一歩一歩ゆっくりと膝を震わせながらデイの玄関に到着しました。
玄関のイスに座られ疲れた様子の山田さんにスタッフ一同満面の笑みで
「山田さん、おはようございます!」
とあいさつしドキドキしながら山田さんの反応を待つも
山田さん「・・・。え? なんて・・・?」
・・・残念。やっぱり伝わりません。
しかしこの様な事は想定済み
慌てずお席まで案内し、座っていただきます。
そしてここで、元気の家の秘密兵器の登場!!(笑)
セリフボード(^^♪
セリフボードとは職員一同で話し合い、デイ利用時や生活で使うであろう言葉をわかりやすくシンプルに記入したコミュニケーションボード
平たく言うと日常会話などが書かれた紙である(笑)
スタッフ「おはようございます。」
「お会いできて嬉しいです。」
「今日の体調はいかがですか?」などなど
山田さんはそのセリフボードを、ゆっくり声に出して読んでくださりお返事をして下さります。
山田さん「おはよう。」「体調はしんどいわ。」
スタッフの自己紹介などはコンパクトサイズのホワイトボードを使ってコミュニケーションを取ります。
そして何より大切だと思う事はボードを使ってお話している時のスタッフの表情。
これでバッチリ(^^)! スタッフ全員が思いましたが山田さんの表情も来た時よりは和らぎましたがあまり浮かない様子・・・
レクなどの時もボードを使って参加しましたが初日という事もありますが、スタッフが思っていた反応には少し寂しい気がしました。
その日の業務終わりのカンファレンスで全員で話し合った結論は、やはり普通に会話する時と比べ、いちいちボードに目を落とし読むため会話をしているというよりも、文章を読んでいる事となり、山田さんとスタッフの直接のコミュニケーションになっていないのでは?との結論になり、人との関わりの難しさを再認識する一日になりました。
あっ!
伸び放題の髪とひげは散髪屋さんに来てもらい、綺麗にカットしてもらい、とっても男前になりました(^ω^)
その3 「あれー!?」
スタッフも一人一人が試行錯誤しボードなども使いながら、しかしただボードを読んでもらうだけでなく、わかってもわからなくても他の利用者様と同じように話し掛け、山田さんとコミュニケーションを取りながらデイにもだんだん慣れてこられ、2週間ほど経過した時。
おやつの時間にふとスタッフが他の利用者様に話をする調子でボードなど使用せず山田さんに話し掛けると
スタッフ「山田さん、今日のおやつもおいしそうですねー。」
山田さん「そうやなぁー。」
スタッフ「わたしも欲しいです。・・・・・?」
あれ!?
スタッフは特に大きな声で話し掛けるなどしていません。
普通の声の大きさで何気なく喋り掛けたのです。
スタッフがもう一度同じ事を話し掛けてみると
山田さん「え? なんて?」
やっぱり気のせいやったんかなー?
その日の業務終わりのミーティングでもその話題は出ましたが、それ以外はやっぱり聞こえていない様子なので、気のせいだったという事で話が終わりました。
その4 気のせいじゃない!
山田さんがデイに来られるようになってそろそろ一カ月が経過し、桜の花が満開になってきていた頃。
デイの送迎時スタッフが運転しながら、何気なく話し掛けます。
スタッフ「山田さんいいお天気ですねー。」
山田さん「そうやなぁー」
ポツリと返事があった後
山田さん「こんだけ暖かくなったら気持ちええなぁー。」
はっきり返事してくれた!!
あれー!?なぜ??
スタッフ全員がボードなどだけに頼らず声掛けし続けたから?
理由はわからないけどそんな事どうでもいい!
とにかく嬉しーい!!
それからはボードなどほとんど使用せず、耳が聞こえコミュニケーションが取れるようになった山田さん。
冗談のお好きな、他の利用者様と一緒に何かするのが大好きな山田さん。
朝のレクの時もスタッフがあいさつをすると真っ先に拍手をしてくれる山田さん。
嬉しくてスタッフがお礼を言うと
山田「ワシがやれるのは拍手ぐらいかなぁ」
と笑っていつも冗談を言われる優しい優しい山田さんです。 !(^^)!


